Ginza6 の悟り

今回の東京滞在には、再度銀座を選んだ。東京、新橋、有楽町などどこに行くにもアクセスが良く、また買い物もハンズ、無印、ユニクロ、など全て揃っているので便利というのが一番の理由だ。僕は、あまりショッピングに興味はないが、デザイナーブランドの商品なんかを「作品」として見るのは好きで、今回初めてGinza6に行ってみた。
エスカレーターで各階見て回ったが、6階の蔦屋書店がほぼフロアの半分以上を美術本で埋め尽くしていて、それらの本を見て回るのに時を費やした。

一番最初に目にっ入ったのが岡倉天心の「茶の本」だった。カラフルな装丁のものから、現代語訳、オリジナルの英語版などいくつもの種類があるところを見ると、こういった本を読む人が増えているのを想像させた。
次に歌舞伎や能といった日本の伝統芸能関連、茶道や、華道、石庭の本や写真集、その先には、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」もお出ましした。
僕は十代の後半初めて日本を出て、外側から日本を眺めて初めて日本のユニークさを知った。その後、禅やら、道教やら、中医学やら東洋哲学系に興味を持ったから、必然的に日本の伝統美術、芸術などにハマっていた。近くの禅寺に参禅していた時には、茶道、華道も一通り学んだ。
アメリカに移住して、アメリカナイズされ金まみれな思考、自分勝手が許されるままに自分の人間汚染が進んでいった気がするが、ここ数年間また東洋系に戻りつつあるといったところで、これらの本に出くわし、再度日本のユニークな審美観を顧みる機会を与えられたような気分だった。
日本の伝統美術に見られる美的感覚は、世界でも突拍子なくユニークでとんがってる。ことにアメリカのそれに比較すると全く真逆で奥深い。ことに、寂の世界、陰の世界の中に美を見る目は研ぎ澄まされている。侘び寂びなどさることながら、4畳の茶室の中にぎっしり詰まった茶の宇宙とか、花に陰陽を表現した華道とか、岩と砂で深山幽谷を表す石庭とか、色が剥げて黒光する仏像美を愛でるとか、そんな審美眼は日本人きってのものだ。

日本は、陰影の中でその美感覚を築き上げた、と陰翳礼讃の中で谷崎潤一郎は言っている。日本の昔からあった深緑や、黒褐色の便器が次第に西洋の白い便器に変わり、陰影の中の神秘さを失い味気なくなったことを嘆悲しんでいる。また、箸とフォーク・ナイフの食事を比較して、箸が木の触感で柔らかく食べ物を包み込んでくれるのに対して、光るフォークやナイフで刺したり切り刻んだりというのは、あまりに野蛮であり日本人には相応しくない、とも評している。
昔、一世を風靡した日本のファッションデザイナーたちは、三宅一生にしろ、川久保玲にしろ、そういう独特な審美を独自に表現していたと思う。

Comme Des Garçon 川久保玲
ちなみに、世界が持つ日本のイメージのナンバー1は、「豊かな伝統と文化を持つ」であるらしい。漫画、アニメ、ユニクロ、コスプレも確かにユニークで面白いと思う。しかし、表面的な面白さの奥により深いものがそこにあるかというと、やはり首を傾げてしまう。
日本には、今でも脈々と流れる精神性の高い芸術や、文化が他国のように破壊されることなく今も僕らの生活や考え方に深く根付いている。そういう部分でも、日本人はもっともっと世界に影響力を持って良い。漆黒の便器が無条件で白く光る味気のないものに変えられてしまうのは、この上なく勿体無いことだと自覚して欲しいと思う。